歯周病は犬猫で最も一般的な疾患の一つである。「3歳以上の犬の80%以上、猫の70%以上が歯周病」という数字がしばしば引用されるが、これはAVDS(American Veterinary Dental Society)が啓発目的で用いてきた推定値であり、方法・対象・診断基準を明示した一次研究に基づくものではない。一次診療ベースの疫学研究では、英国VetCompassの犬22,333頭のコホートで歯周病の1年間の診断率(1-year period prevalence)は12.52%(95%CI 12.09〜12.97)、猫18,249頭では15.2%(95%CI 14.72〜15.76)と、これより大幅に低く報告されている。ただしこれは診療記録上の診断率であり、全顎X線検査とプロービングを全頭に行った実測有病率ではない点には注意を要する。いずれにせよ多くの症例で見過ごされ、治療介入が遅れる傾向にある。歯周病は口腔内にとどまらず、心臓・肝臓・腎臓への菌血症による遠隔臓器への悪影響の可能性が指摘されている。
口腔内の視診のみでは歯周病の重症度評価は不可能である。
すべての歯について以下を系統的に記録する:
| ステージ | 所見 | 治療方針 |
|---|---|---|
| 1 | 歯肉炎のみ。骨吸収なし | スケーリング&ポリッシング。在宅デンタルケア指導 |
| 2 | 付着喪失 <25%。早期歯周炎 | スケーリング・ルートプレーニング。在宅ケア強化 |
| 3 | 付着喪失 25〜50%。確立された歯周炎 | 確実な在宅ケアが見込めれば歯周治療(ルートプレーニング、必要に応じて歯周外科)での保存を検討。困難なら抜歯 |
| 4 | 付着喪失 >50%。進行した歯周炎 | 原則として抜歯 |
無麻酔歯石除去(Non-Anesthetic Dental Scaling: NAD)は以下の理由からAVDC(American Veterinary Dental College)および日本小動物歯科研究会から強く非推奨とされている:
見た目がきれいになるだけで実質的な治療効果がない「美容処置」に過ぎず、飼い主に歯周病が治ったという誤った安心感を与える危険性がある。