一般的な維持食では、特定の疾患に対する栄養学的介入(リン制限、脂肪制限、新奇タンパク源への切り替え等)は達成できない。療法食は診断された疾患の管理・進行遅延を目的として設計された処方食であり、獣医師の処方なしに使用すべきではない。
CKD用療法食は犬猫ともに最もエビデンスが充実しており、適切な療法食への移行はIRISステージ2以上のCKDにおいて生存期間の延長が示されている。
CKD用療法食の栄養設計:
| 栄養素 | 方針 | 根拠 |
|---|---|---|
| リン | 制限 | CKD進行遅延の最重要因子 |
| タンパク質 | 適度に制限 | 窒素性老廃物の軽減(ただし筋肉量維持とのバランス) |
| ナトリウム | 軽度制限 | 血圧管理、腎臓への負担軽減 |
| Omega-3脂肪酸 | 増量 | 腎臓の炎症・酸化ストレスの軽減 |
| カリウム | 症例による | 低カリウム血症の場合は増量 |
| 水分 | 増加推奨 | 特に猫でウェットフード推奨 |
| エネルギー密度 | 高め | 食欲低下時の体重維持 |
食欲増進薬: CKDによる食欲不振にはミルタザピンやカプロモレリンが使用できる。
心疾患用の食事管理ではナトリウム制限が中心となるが、制限の程度はステージにより異なる。軽度制限(初期)から中等度制限(うっ血性心不全)へと段階的に調整する。過度なナトリウム制限はRAAシステムの過剰活性化を招くため避ける。
CKDと心疾患が併発する場合、両者ともにナトリウム制限を基本とする点は合致するが、極端な制限は腎血流低下のリスクとなるため注意が必要。
膵炎: 犬では低脂肪食が推奨される。猫では低脂肪の有効性を強く支持するエビデンスはなく、むしろ十分なカロリー摂取と肝リピドーシス予防が優先される。
炎症性腸疾患(IBD): 食物有害反応が関与する場合、新奇タンパク(ターキーやカンガルー等)または加水分解タンパク食への切り替えが有効。
急性下痢: 高消化性・低残渣食を短期間使用し、腸の負担を軽減する。
結石の種類に応じた処方食が必要(ストルバイト溶解食、シュウ酸カルシウム予防食など)。詳細は「尿石症」の記事を参照。FLUTDの猫では尿路用の炎症軽減・ストレス管理を含む処方食も存在する。
確定診断には6〜8週間以上の厳格な除去食試験が必要。新奇タンパク食または加水分解タンパク食を使用し、期間中はおやつや人間用食品を一切排除する。
臨床現場では単一疾患だけでなく、複数の疾患を抱えた患者が多い。各疾患に対する最適食が相反する場合の対応として、栄養トリアージの考え方を用いる。
| 失敗 | 理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 確定診断前の処方 | 不適切な制限で悪化 | 検査結果を待って選択 |
| 複数フードの混合 | 栄養バランスが崩壊 | 1種類を完全に切り替え |
| おやつの追加 | 制限の意味が消失 | 同メーカーの専用おやつのみ |
| 移行が急すぎる | 消化器症状の悪化 | 7-10日かけて段階的に |
| モニタリングなし | 効果判定不能 | 定期的な尿検査・血液検査 |