高ナトリウム血症(血清Na > 155 mEq/L(犬)、> 162 mEq/L(猫))は、相対的または絶対的な体内の「水不足」を反映している。
💡 臨床のコツ(原因検索のファーストステップ): 高Na血症に出会ったら、まず「この子は水を飲める状態にあったか?」を確認する。自由に水を飲める環境にありながら高Na血症であれば、自発的飲水ができない疾患(神経疾患、重度の衰弱)または尿崩症のように「飲んでも追いつかないほどの尿量増加」が背景にある。水が提供されていなかった(ネグレクト等)場合は単純な脱水、塩分過多のものを摂取した場合は塩中毒を疑う。
高ナトリウム血症が持続すると、血漿高浸透圧により脳細胞内の水分が細胞外へ引き抜かれ、脳細胞が萎縮して血管が破綻し、脳出血をきたす危険がある。
これに対抗するため、脳細胞は数時間〜数日(48時間以上)かけて細胞内に特有の浸透圧物質(Idioosmoles / 特異的浸透圧物質)を産生・蓄積し、細胞内浸透圧を上げることで自らの水分量を維持しようと「適応」する。
【警告】
この適応状態にある患者に対し、急速に低張な輸液(5%ブドウ糖液や0.45%NaClなど)を投与して血清ナトリウム濃度を突然下げると、今度は水が血漿から「Idioosmolesたっぷりの脳細胞内」へと一気に流れ込み、致死的な脳浮腫(Cerebral edema)を引き起こす。
脱水が重度でショック状態(低血液量性ショック)にある場合は、高ナトリウム血症の補正よりもショックの離脱を最優先する。
等張液(乳酸リンゲル液や0.9%生食)を用いて、初期蘇生(ボーラス投与)を行う。等張液であっても、現在の血清ナトリウム濃度が170 mEq/Lなどの症例にとっては「相対的に低張」であるため、急速投与によりナトリウム値が下がる可能性があることに留意する。
💡 臨床のコツ(ショックとNa補正のジレンマ): 「Na 175 mEq/Lでかつショック」のような症例では、脳浮腫を怖がって輸液をためらえばショックで死亡する。まずは「命を救うためにショック離脱」が第一優先であり、その上でNaの下降速度をモニタリングする。ボーラス投与中は30分ごとにNaを再検し、下がりすぎていれば投与速度を絞る。
循環が安定したら、「体内の純粋な水がどれくらい足りていないのか」を計算し、水和を計画する。
自由水欠乏量(L) = 現在の体重 × 係数(犬0.5、猫0.4) × [(血清Na/正常Na) - 1] ※正常時の係数0.6を使用すると過補正による脳浮腫リスクがあるため脱水時の係数を使用する
※ 正常Na値は通常 犬:145〜150, 猫:150〜155 程度で計算。係数0.6は体液量(体重の60%)。
最初のリスク期間中は2〜4時間ごとに血清ナトリウム濃度を再評価し、0.5 mEq/L/hr以上のペースで下がっていないかチェックする。急激に下がりすぎた場合は輸液速度を落とすか、等張液に切り替える。
💡 臨床のコツ(神経所見の観察): Naの数値だけでなく、意識レベル・瞳孔サイズ・筋緊張の変化も同時にモニタリングする。治療中に意識が急に悪化したり、痙攣や異常な眼球所見が出現した場合は、Naが急激に下がりすぎて脳浮腫を起こしている可能性がある。その時は輸液を一時停止し、最新のNa値を確認せよ。