血糖値 >600 mg/dL、高浸透圧、しかしケトン陰性 ── 脳細胞は「高い状態」に数日かけて適応している。急速な輸液とインスリン投与は致死的な脳浮腫を引き起こす。DKAとは根底から異なる超・緩徐なマネジメント。
HHSは少量のインスリンが残存しケトン体産生は抑制されているが、極端な高血糖(通常>600 mg/dL)・重度の脱水・血清浸透圧の著増(>350 mOsm/kg)により重篤な神経症状(昏睡・発作)をきたす内分泌の緊急疾患。犬猫ともに稀だが猫での報告が犬よりも多いとされる。脳細胞は数日かけて特発性浸透圧物質(idiogenic osmoles: タウリン・ミオイノシトール等)を産生し高浸透圧に「適応」している。この状態で急速に輸液やインスリンを投与し細胞外浸透圧を急落させると、水が脳細胞内に一気に流入し致死的な脳浮腫(Cerebral edema)を引き起こす。治療原則は「超緩徐」:等張液(0.9% NaCl)のみで36-48時間かけて脱水を補正し、インスリンは数時間〜半日以上待ってから慎重に開始。有効血清浸透圧の低下速度は0.5-1.0 mOsm/kg/hr以下に抑える。DKAとプロトコルを混同することは致命的である。
| 項目 | DKA(ケトアシドーシス) | HHS(高浸透圧高血糖) |
|---|---|---|
| 血糖値 | 通常 300-500 mg/dL 程度 | 極度(>600-1000 mg/dL以上) |
| ケトン体 | 陽性(強) | 陰性または弱陽性 |
| 血清浸透圧 | やや高値(<350 mOsm/kg) | 著増(>350 mOsm/kg) |
| アシドーシス | 中等度〜重度 | なし〜軽度 |
| 神経症状 | 虚弱・嘔吐(アシドーシスによる) | 深い昏睡・発作・脳症(高浸透圧による) |
| 輸液ペース | 12-24時間で脱水補正 | 36-48時間(超緩徐) |
| インスリン開始 | 2-6時間後 | 数時間〜半日以上待つ |
| 最大の脅威 | 低K血症・代謝性アシドーシス | 脳浮腫 |
| ❌ 罠 | ✅ 正しいアプローチ |
|---|---|
| 低張液(0.45% NaCl等)を大量投与 | 0.9% NaCl(等張液)から開始。低張液は浸透圧急落→脳浮腫の直接原因 |
| 来院直後からインスリンで血糖を急降下 | インスリンは最初は打たない。輸液のみで浸透圧利尿による緩やかな血糖低下を見守る |
| DKAと同じ速度(50-75 mg/dL/hr)で血糖を下げる | HHSは遥かに遅いペースが必要。有効浸透圧の変化を0.5-1.0 mOsm/kg/hr以下に抑える |
| 有効浸透圧の計算をおろそかにする | 必ず「有効」血清浸透圧を計算し、輸液速度の指標にする。計算式: 2×Na + (Glu/18) |
「脳は高い浸透圧に数日かけて適応した。我々がそれを数時間で元に戻そうとすれば、脳は壊れる。」
治療中に以下の症状が急に出現したら脳浮腫を強く疑う:
→ 20%マンニトール 0.5-1.0 g/kg IVを15-20分かけて投与
有効Osm = 2 × Na (mEq/L) + Glu (mg/dL) / 18
※BUNは細胞膜を自由通過するため「有効」浸透圧には含めない
| 浸透圧 (mOsm/kg) | 判断 |
|---|---|
| 290-310 | 正常 |
| >320 | 高浸透圧(神経症状が出始めるライン) |
| >350 | HHSの典型。脳浮腫リスクが高い |
浸透圧の低下を <0.5-1.0 mOsm/kg/hr に保ちながら経過観察する。計算値をもとに輸液速度を調整する。