「心雑音があるけど歯石除去したい」── 循環器疾患を持つ犬猫の麻酔で、何を恐れ、どう備えるか。疾患別プロトコルと術中管理。
心疾患動物の麻酔で最も重要なのは「心疾患の種類によって恐れるべき合併症が異なる」という認識。MMVD(僧帽弁閉鎖不全症)では後負荷の急激な増大(=逆流悪化 → 肺水腫)を避ける。DCM(拡張型心筋症)では心筋収縮力のさらなる低下を避ける。HCM(肥大型心筋症)では頻脈と脱水による左室流出路閉塞を避ける。共通原則は①術前心エコーで病態評価 ②α2作動薬(メデトミジン)を原則回避 ③局所麻酔を最大限活用して全身麻酔薬の使用量を最小化 ④MAP > 65mmHgを死守。歯科処置のような「緊急性が低いが必要な処置」では、安定化してから計画的に麻酔をかけることが生存率に直結する。
⚠️ 日本の臨床実情: 日本では小型犬のMMVDが圧倒的に多く、「心雑音があるけど歯科処置が必要」という場面が日常的。心エコーでACVIM Stage分類を確認し、Stage B2以上の場合は循環器専門医との事前カンファレンスを推奨。
| 項目 | MMVD | DCM | HCM(猫) |
|---|---|---|---|
| 最大のリスク | 後負荷↑ → 逆流↑ → 肺水腫 | 心収縮力↓ → 心拍出量↓ → ショック | 頻脈 → LVOTO → 急性心不全 / SAM |
| 避けるべき薬剤 | α2作動薬(後負荷↑) | α2作動薬 + プロポフォール高用量 | ケタミン単独(頻脈)、α2作動薬 |
| 前投薬 | メサドン 0.2-0.3mg/kg + ミダゾラム 0.2mg/kg | メサドン 0.2mg/kg + ミダゾラム 0.2mg/kg | ブプレノルフィン 0.02mg/kg + ミダゾラム 0.2mg/kg |
| 導入 | プロポフォール 2-4mg/kg IV(緩徐) | エトミデート 0.5-2mg/kg or アルファキサロン | アルファキサロン 2-5mg/kg IV or プロポフォール低用量 |
| 維持 | セボフルラン + フェンタニルCRI | セボフルラン低濃度 + フェンタニル/リドカインCRI | セボフルラン + ブプレノルフィン |
| 低血圧対策 | ドパミン 5〜15μg/kg/min | ドブタミン 2-10μg/kg/min | 輸液速度調整、フェニレフリン |
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 心エコー | FS/EF、LA/Ao、E/A、LVID、弁逆流の重症度。2週間以内のデータが理想 |
| 胸部X線 | VHS(脊椎心臓サイズ)、肺野のうっ血所見 |
| 心電図 | 不整脈の有無、特にAfib(心房細動)の確認 |
| 血圧 | ベースライン血圧の把握 |
| 投薬状況 | ピモベンダン・利尿剤・ACE阻害薬の当日投与可否。通常は麻酔当日朝も投与継続 |
| 緊急薬の準備 | エフェドリン、ドパミン/ドブタミン、アトロピン、フロセミドを事前に計算・シリンジ準備 |
graph TD
A["麻酔中 MAP 60mmHg以下"] --> B{"まず確認"}
B --> C["過深麻酔?"]
B --> D["心拍数異常?"]
B --> E["出血?"]
C --> F["吸入麻酔薬減量"]
D --> G["心拍数調整"]
E --> H["止血 輸液"]
F --> I["オピオイドCRI増"]
I --> J["輸液ボーラス"]
J --> K{"低血圧持続?"}
K -->|"Yes"| L{"バソプレッサー選択"}
L -->|"DCM"| M["ドブタミン"]
L -->|"MMVD"| N["ドパミン"]
L -->|"HCM猫"| O["フェニレフリン 輸液調整"]
L -->|"その他"| P["エフェドリン"]
L -->|"その他"| Q["ドパミン"]
M --> R{"MAP改善?"}
N --> R
O --> R
P --> R
Q --> R
R -->|"No 徐脈あり"| S["グリコピロレート"]
R -->|"Yes"| T["モニタ継続"]
S --> T