「とりあえず10mL/kg/hrで流しておいて」── その常識はもう古い。2024 AAHAガイドラインが示す、麻酔中の輸液速度の根拠と過剰輸液の害。
周術期の輸液管理で最も重要なのは「10mL/kg/hrの時代は終わった」という認識の転換。2024 AAHAガイドラインでは、正常な心機能・腎機能を持つ麻酔下の患者に対し、犬: 5mL/kg/hr、猫: 3-5mL/kg/hrの平衡晶質液を初期速度として推奨している。従来の10mL/kg/hrは過剰輸液(Fluid Overload)のリスクが高く、特に猫(循環血液量が少ない)、心疾患(MMVD・心筋症)、腎疾患(CKD・AKI)の患者では致命的な肺水腫を招く。輸液剤の選択も変化し、生理食塩水のルーチン使用は推奨されず、乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液などの平衡晶質液が第一選択。術中低血圧に対しては「とりあえず全開」ではなく、①麻酔深度の確認 → ②少量ボーラス → ③反応がなければ昇圧薬という段階的アプローチが標準。
⚠️ 日本の臨床実情: 教科書的な「10mL/kg/hr」がいまだに広く使われているが、AAHAガイドラインの改訂を機に見直すべき。特に猫の避妊手術など短時間手術では、3mL/kg/hrで十分であり、術後の肺水腫を予防できる。
| 項目 | ❌ 旧来(2013年以前) | ✅ 2024 AAHA推奨 |
|---|---|---|
| 犬 術中速度 | 10 mL/kg/hr | 5 mL/kg/hr |
| 猫 術中速度 | 10 mL/kg/hr | 3-5 mL/kg/hr |
| 輸液剤 | 生理食塩水も可 | 平衡晶質液(乳酸リンゲル・酢酸リンゲル) |
| 低血圧への対応 | 「輸液を全開にする」 | 少量ボーラス→昇圧薬の段階的対応 |
| 術後輸液 | とりあえず維持量で継続 | 飲水・摂食できれば不要 |
※心疾患・腎疾患のある患者ではさらに低速からの開始が必要。「輸液は薬剤である」という認識で個別に処方する。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 脱水の評価 | 脱水がある場合は麻酔前24時間以内に80%を補正(可能であれば) |
| 心機能 | 心雑音の有無、猫ではHCMの潜在リスクを考慮 |
| 腎機能 | BUN/Cre、SDMA。腎機能障害があれば輸液速度をさらに減量 |
| 飲水の制限 | 2024 AAHA: 麻酔前の絶水は推奨されない(ほとんどの患者で) |
| IV留置 | 全身麻酔を受ける全例にIVカテーテルを留置 |
graph TD
A["開始: MAP < 60mmHg または収縮期血圧 < 80mmHg"] --> B{"Step 1: 麻酔深度の確認"}
B --> C["吸入麻酔薬 25-50%減量 + オピオイドCRI増量"]
C --> D{"血圧改善?"}
D -->|"Yes"| E["モニタリング継続"]
D -->|"No"| F{"Step 2: 輸液ボーラス (Fluid Responsiveness評価)"}
F --> G["犬: 5-10mL/kg / 猫: 1-3mL/kg (短時間投与, 5-10分で評価)"]
G --> H{"血圧改善? (Fluid Responder?)"}
H -->|"Yes"| E
H -->|"No (Fluid Refractory)"| I{"Step 3: 昇圧薬の選択と投与"}
I --> J["エフェドリン / ドパミンCRI / ドブタミンCRI / ノルエピネフリンCRI"]
J --> K["継続的なモニタリングと調整"]