敗血症(sepsis)とは、感染に対する宿主の免疫応答が制御不能となり、自身の組織を傷害して臓器障害を引き起こす症候群である。全身性炎症反応症候群(SIRS)に感染が合併した状態として認識される。進行すると敗血症性ショック(septic shock)に至り、輸液蘇生に反応しない持続的低血圧と組織低灌流を引き起こす。
犬は以下の4項目のうち 2つ以上 を満たした場合にSIRSと判定される:
| パラメータ | 異常値 |
|---|---|
| 体温 | 発熱(>39.2℃)または低体温(<37.8℃) |
| 心拍数 | >120 bpm |
| 呼吸数 | >20回/分(またはPaCO2 < 30mmHg) |
| WBC | >16,000/μL または <6,000/μL、または桿状核球 >3% |
犬の敗血症初期には、消化器症状(嘔吐・下痢)、嗜眠、意識変容がみられることがある。Hyperdynamic phase(過動態相)では粘膜の紅潮(brick red mucous membranes)と弾発脈(bounding pulses)が特徴的。
猫のSIRS基準は犬と同じ4項目で構成されるが、数値が異なり認識がより困難である。以下の項目のうち 2つまたは3つ以上 を満たす場合にSIRSと判定される:
| パラメータ | 異常値 |
|---|---|
| 体温 | >39.7℃(103.5°F)または <37.8℃(100°F) |
| 心拍数 | <140 bpm(徐脈) または >225 bpm |
| 呼吸数 | >40 回/分 |
| WBC | >19,500/μL または <5,000/μL、または桿状核球 >5% |
猫の最大の特徴は、犬のような過動態相(頻脈・粘膜紅潮)を呈さず、むしろ徐脈・低体温・低血圧を示すことが多い点である。初期の微妙な症状は食欲低下、嗜眠、隠れる行動にとどまり、容易に見逃される。
SIRS基準は臨床的に有用なスクリーニングツールであるが、単独使用では健康犬猫と疾患犬猫の鑑別能力に限界がある(特異度が低い)。SIRS基準を満たすこと自体が敗血的であることを意味するわけではなく、「感染の確証または高い疑い」との組み合わせで初めて敗血的と評価する必要がある。
Surviving Sepsis Campaign(SSC)の原則を獣医療に適用したアプローチが推奨される。
積極的な静脈内輸液により循環血液量を回復し、組織灌流を改善する。
診断後(認識後)1時間以内に広域スペクトル抗菌薬を静脈内に投与する。培養結果が判明した時点で感受性に基づきde-escalation(狭域化)を行う。
抗菌薬投与前に血液培養を実施。ただし培養結果を待って抗菌薬投与を遅延させてはならない。
外科的ドレナージ、デブリードメント、異物除去など、感染源の直接的な排除が根本治療として不可欠。
| 項目 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 体温上限 | >39.2℃ | >39.7℃ |
| 頻脈 | >120 bpm | >225 bpm |
| 徐脈 | 基準に含まず | <140 bpm(特徴的) |
| 呼吸数 | >20(またはPaCO2<30) | >40 |
| WBC上限 | >16,000 | >19,500 |
| 桿状核球 | >3% | >5% |
| 典型的な初期相 | Hyperdynamic(紅潮・弾発脈) | 徐脈・低体温・低血圧 |