犬の急性膵炎は比較的認識しやすい。急性嘔吐、腹部痛(祈りの姿勢)、下痢、食欲廃絶が典型的所見として挙げられる。診断にはcPLI(犬膵特異的リパーゼ)やSNAP cPLが有用である。腹部エコーで膵臓の腫大、周囲脂肪織の高エコー変化を確認する。
乳酸リンゲル液(LRS)などの等張性晶質液によるIV輸液が第一選択となる。脱水補正、電解質異常の是正、膵微小循環の維持が目的である。低アルブミン血症を伴う症例では膠質液の併用を検討する。
膵炎における疼痛管理は治療の根幹をなす。オピオイド系鎮痛薬が中心となり、ブプレノルフィンやフェンタニルCRIが一般的に使用される。犬ではモルヒネは催吐作用があるため避ける傾向がある。難治性疼痛にはマルチモーダル鎮痛(ケタミンCRI等の併用)が必要となることがある。マロピタントは制吐作用に加えて内臓痛の軽減効果も報告されている。
歴史的に「膵臓を休ませるため」として絶食管理が行われてきたが、現在のエビデンスは早期の経腸栄養を推奨している。経鼻食道チューブや食道瘻チューブを通じた経腸栄養が、TPNよりも優先される。回復期においては低脂肪食が推奨され、長期的な食事管理が再発予防に有効とされる。
マロピタント(NK1受容体拮抗薬)とオンダンセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)が一般的に使用される。嘔吐コントロールは脱水や食欲不振の増悪防止に直結する。
犬の急性膵炎は通常無菌性であり、細菌感染の明確な根拠がない限り抗菌薬のルーチン投与は推奨されない。
PPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2ブロッカーの使用は日常的に行われるが、胃潰瘍や食道炎の合併がない限り、急性膵炎そのものに対する直接的な改善効果のエビデンスは限定的である。
膵臓への好中球浸潤を抑制し炎症を軽減する目的で開発された新しい治療薬であり、日本および米国で臨床使用が可能となっている。従来の支持療法に加えた標的治療の選択肢として注目されている。
猫の急性膵炎は犬と大きく異なり、臨床症状が非特異的で見逃されやすい。嗜眠、食欲低下、脱水、体重減少が主な所見であり、嘔吐は犬ほど顕著ではない。腹部痛は認識されにくいものの、鎮痛剤の投与は推奨される。
診断にはSpec fPL™(猫膵特異的リパーゼ)やSNAP® fPL™が補助的に使用される。
猫の膵炎はIBD(炎症性腸疾患)および胆管肝炎(cholangiohepatitis)と同時に発症し、「三臓器炎」を形成しやすい。この三者は解剖学的に近接しているため、一方の炎症が他方に波及する。治療計画を立てる際は、これら併発疾患を常に視野に入れる必要がある。糖尿病も膵炎に続発しうる。
猫では低カルシウム血症を起こすことがあり、グルコン酸カルシウム静注による補正と血清カルシウムのモニタリングが必要となる場合がある。
猫において、犬と同様の「低脂肪食」の有効性を支持する強力なエビデンスは存在しない。それよりもむしろ、猫の急性膵炎では肝リピドーシス(脂肪肝)予防こそが最優先課題であり、食欲廃絶が持続する場合は早期にフィーディングチューブ(経鼻食道チューブまたは食道瘻チューブ)を設置し経腸栄養を開始すべきである。
猫の膵炎は通常無菌性であり、同時感染が証明されない限り抗菌薬は不要。
猫の慢性膵炎やIBDを併発している場合、抗炎症量のコルチコステロイド投与が有益との報告がある。犬の膵炎では一般にステロイドは使用されないため、ここも種差を認識する重要なポイントとなる。
| 項目 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 典型的な嘔吐 | ++ | +/- |
| 腹部痛の認識 | 容易 | 困難 |
| 三臓器炎リスク | 低 | 高 |
| 低脂肪食の推奨 | ○(回復期) | エビデンス不十分 |
| 肝リピドーシスリスク | 低 | 高(早期経腸栄養必須) |
| ステロイドの使用 | 原則なし | IBD・慢性膵炎併発時に検討 |
| フザプラジブ | 使用可能 | 論文内に記載なし |